水谷明子さん:オーストラリア国立大学生物科学研究所バイオロボティクスグループ研究員首都キャンベラで「トンボの飛び方」を研究している日本人女性がいる。水谷明子さんだ。先日は、研究の途中経過をまとめた論文が、あの「ネイチャー」誌を飾った。科学を志した少女が、豪州で大きな成果を挙げるまでの経緯をうかがった。 「トンボの飛び方」研究、NASAも注目2003/9/9 ![]() 北九州市門司区生まれ。小さいころは「野原を駆け回るのが好きな女の子」だったが、中学生の時に天体望遠鏡を買ってもらってから、毎日のように星を眺めるようになった。天文学者になりたいと思ったが、「数学の成績を見て、一流にはなれないと悟った」ため、生物学科に進むことを決意。地元の九州大学に入学する。 当時は分子遺伝学が流行だったが、「人と同じことはやりたくなかった」水谷さんは、昆虫の視覚研究を選ぶ。 卒論はゴキブリの単眼。甲虫の一種であるハンミョウの幼虫の視覚研究で学位を取得した。 再来豪の「理由」 水谷さんは大学院卒業後、助手として大学に残り、研究を続ける。日本学術振興会と豪アカデミー・オブ・サイエンスから出張費を得て、1996年に初来豪。現在も籍を置くオーストラリア国立大学(ANU)の生物科学研究所(RSBS)に赴任した。 来てみてまず驚いたのは、研究の規模が日本と比較にならないこと。RSBSは、特に昆虫生理学では世界的に有名で、科学雑誌で名前を知っている研究者たちがその辺をうろうろしていた。 7カ月の出張期間を終えた後、いったん日本に戻り、97年5月に再び来豪。最初は研究を続けていたが、「個人的な理由で」1年ほど休まなくてはならず、その間モナシュ大学でコンピューター関係の学位を取った。 個人的な理由とは何ですか、と聞くと、「子供が出来たんです(笑)」。ご主人のジョバンニ・チャールさんとは最初の来豪時に研究所で知り合った。豪州永住を決めた最大最強の「理由」だ。 トンボの研究を始めたのは、出産を終えてから。所属グループの専門分野であるバイオロボティクスとは、5年ほど前から盛んになってきたバイオミメティクスという研究の一環で、動物や昆虫の機能をロボットに応用する学問だという。 水谷さんは夏の間、毎日のように野原に出て、自作のステレオカメラでトンボを撮影。コンピューターに取り込んで3次元的に再構築し、雄同士が縄張り争いのため、どのように飛んでいるかを解析する。 トンボは、単純に相手を追いかけるのではなく、ライバルの網膜上で自分が常に同じ位置に見えるように調整し、行く手をさえぎるように動く。「ネイチャー」誌に掲載されたのは、この「モーション・カモフラージュ」と呼ぶ行動についてまとめた論文だった。 火星探査にも応用 トンボの飛翔のメカニズムは、ヘリコプターのナビゲーションシステムなどへの応用が期待されている。米航空宇宙局(NASA)も火星探査の一環として、この研究を利用した無人飛行機を計画中だ。 「自分がNASAにかかわるとは、夢にも思っていませんでした」と水谷さん。9月にはご主人も含めた研究員全員が米国に赴き、デモンストレーションを行う。ただし水谷さんだけは豪州に残る。2人目のお子さんがお腹の中にいるからだが、そのうち念願のNASA行きも実現するだろう。 現在38歳。4つ年下のチャールさんと共通の趣味は天文観測で、「子供が大きくなったら、天体望遠鏡を車に載せて、アウトバックに化石掘りにでも行こうかなと思ってます」 飽かずに星に見入っていたかつての少女は、日本とは星座が逆さまに見える南半球の大地で、次々と夢を現実に変えていく。 (聞き手・鈴木雅章) >>この目次トップへ[P R] [P R] [P R] |