田畑延明さん:トヨタ・モーター・フィリピン社長

トヨタにとってフィリピン事業の意味合いは、かつての市場参入のためから、「集中と分散」をキーワードにした域内取引拠点としての役割に変化したという。国内売り上げトップを維持するトヨタ・モーター・フィリピンの社長、田畑延明さんは、右肩上がりの成長を続けていた頃の北米で培った事業実績を携え、いまアジアで舵を取る。

“ジプニーの国”で産業育成

2003/9/30

田畑延明さん

果たしてフィリピンでこれ以上、自動車産業は育つのか。この国に生活する一人として素朴な疑問を感じていた。今回、国内市場をけん引するトヨタの田畑さんに話を伺える機会を得て、早速、この質問をぶつけた。

田畑さんは当地事業について、ほかの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に比べ、地方での売り上げが伸び悩んでいると指摘する。その理由の一つとして、この国の文化ともいえる乗り合い自動車「ジプニー」の存在を挙げた。バラバラで入ってきた車両各部を当地で溶接し非常に安値で取引されるジプニーは、庶民の足として全国に広く浸透している。だが田畑さんは、「自動車産業はジプニーからは生まれない」と断言。ジプニーのあり方自体を見直す必要があると訴える。また、自動車産業の育成は国策として長期ビジョンを持って取り組む必要があるとし、政府が先ごろ策定した自動車開発計画(MVDP)には一定の評価を下しているようだ。

一方でこの国には、最近の新しい物品税規定の策定プロセスを見ても明らかなように、政策の決定過程で遅延や混乱が生じる。この点について田畑さんは、自動車産業を種まきから刈り取りまで5〜7年の期間を要する「農耕型製造業」と称し、短期間で政策改訂が行われるような政治的背景の下では、産業の育成はかなわないと述べた。さらにこの国にはつきものの「治安問題」では、ASEANをはじめ各国との取引がさらに活発化していく中、デリバリー業務への影響を最も危ぐしているという。

現地の目線で

米国、インドネシア、それにフィリピンでの駐在経験がある田畑さんは、それぞれの国のやり方を探るのに、常に「現場」を重視するという。経営トップの立場にありながら、最終消費者に最も近い販売店に自ら出向き、直接状況を見聞きすることで分かってくることは多い。これすなわち「現地の人と同じ目線に立つこと」なのだそうだ。

また現地従業員との関係にもそんな姿勢の一端がうかがえる。当地の企業内でよく行われる従業員の誕生日会へ、「私の都合に合わせて日程を決めてもらっているんです」というが、欠かさず出席する。これにはかつて、田畑さん自身が日本の社内で祝ってもらった経験があり、その時の感覚を共有していることも大きく影響しているようで、自ら「(昔に)プレーバックしているのかもしれませんね(笑)」と認めている。それゆえか、逆に日本の若手社員の中にこうした社内の催しに顔を出し渋る傾向があることには、いささか不満がある様子だ。

田畑さんは現地従業員を、「根はまじめで家族思い」と評す。その上で、会社は大きな家族との視点から、経営者として言いたいことは山ほどあれど、最終的には会社に尽くしてくれると期待を示している。

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改めて田畑さんは、異なる土地でやっていくには、「その国と国民を好きになることが重要」という。

米国から東南アジアへ乗り込んできた際、前任者からここでは米国的な発想はいけないとまず釘をさされた。ただ田畑さんにとって当時、先進国から発展途上国に来たという特別な意識はなく、場所にかかわらずこれまでと同じく現場重視の姿勢を貫き通してきたようだ。

ただ田畑さんは自身の経験を踏まえ、後輩には一度は発展途上国の現場に触れてほしいと話す。ではその際、若い彼らに求められるものは何か。この問いに田畑さんは「ポジティブな姿勢と、少しだけ先を見ることのできる視野」とだけ答えた。しかしこの時、柔らかい口調の中にも、この「少しだけ」がどれほど困難なことかを若手は真剣に考えよ、と厳しい注文を突きつけられているようにも感じた。【インタビュー:鹿谷晴生】

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