ミンダナオ子ども図書館・長松居友さん1953年東京生まれ。上智大学ドイツ文学科大学院を卒業後、オーストリアのザルツブルグ大学に留学。帰国後、福武書店(現ベネッセコーポレーション)児童書部の初代編集長を務める。著書に『昔話と心の自立』(洋泉社)、『サンパギータの白い花』(女子パウロ会)など多数。 物語で子どもたちに希望を2010/12/9
いつの時代も人々を引き付ける物語。人間はストーリーを語り、伝えていくことを繰り返し、コミュニティーの文化や誇りを伝承してきた。そんな物語の力が、フィリピン南部ミンダナオ島で子どもたちに希望を与えている。現地NGO(非政府機関)の「ミンダナオ子ども図書館」。館長で元児童書編集者の松居友さんは、貧困と紛争が続くこの島で、10年前から子どもたちのために読み聞かせ(ストーリーテリング)活動を行っている。 ■表情をなくした子どもたち ミンダナオと聞いて、日本人はどんなイメージを思い浮かべるだろうか。構造的な貧困。国軍と反政府勢力との争い。鉱物資源と豊かな漁場、バナナのプランテーション。多様なフィリピンの中でも、この島はとりわけさまざまな顔を見せる。 松居さんがそんなミンダナオ島に足を踏み入れたのは2000年のこと。知人の紹介で偶然訪れ、そこで見た光景に衝撃を受ける。国軍と反政府勢力との激しい戦闘によって難民となり、笑顔どころか表情を失った数多くの子どもたち。「どうすればこの子たちを救えるのか」。松居さんはひどく胸を痛めた。そんな時、頭に浮かんだのがこの島に残り、読み聞かせを行うことだった。 もともと日本で児童書の編集者をしていた。父も児童書の編集者で、小さなころから絵本の読み聞かせに慣れ親しんできた。自由と自然にあふれた明星学園の小学校時代には、あの無着成恭氏の教えを受けている。 ■自分で歩いて信頼を得る 現地で活動するには正式な組織が必要だったことから、03年にフィリピンの法律に基づいた法人「ミンダナオ子ども図書館」を立ち上げた。現在15人のスタッフを抱え、読み聞かせのほか、奨学金の付与、さらには医療支援も行っている。 活動の基本は「とにかく歩く」こと。山奥の村々に何度も足を踏み入れ、信頼を得てきた。 いずれも貧しく、しかも政府に対する不信感が根強い地域だ。本来であれば警戒心が強く、外国人は容易には近づけない。松居さんは現地の生活にどっぷり溶け込み、ミンダナオで広く話されているビサヤ語を習得。一方で、最初の5年間は日本語を話すことがほとんどなかったという。 ■子どもが語り、子どもが聞く 拠点とするのはミンダナオ中部、ノースコタバト州キダパワンにある農場の中の一軒家。1階が図書室で、2階では100人の子どもたちが共同生活をする。キリスト教徒、イスラム教徒、アニミズムの先住民族と、言葉や宗教の異なる子どもたちが協力して暮らす。それによりお互いの文化を知り、違いを認め合うことができる。「紛争の島」という一般的なイメージとは違う風景がそこには流れているという。 今も活動の中心は読み聞かせだ。絵本だけでなく、地元の昔話を子どもたち自身が覚え、ビサヤ語、マノボ語など自分の言語で語る。貧しくとも物語にあふれたミンダナオ島の村々。年端のいかない小さな子が驚くほど上手に語り、それを聞く子たちは顔を輝かせる。みなが自分たちの文化や誇りを再認識する。 日本では最近、ミンダナオをめぐる紛争の話は聞こえてこない。しかし松居さんによると、先住民族の生活が以前よりさらに苦しくなるなど、課題はたくさんあるという。「大きな道から外れたところ、中心から離れたところで起きていることを、もっと知ってほしい」。穏やかな声、柔らかな目線の持ち主は、傷ついた子どもたちを救い、自信を取り戻してもらうため、今日もまた島のどこかを歩いているに違いない。(巣内尚子) >>この目次トップへ[P R] [P R] [P R] |