一岡邦興さん:エフイーシー代表取締役2003年4月、休暇で日本に滞在していたマハティール首相(当時=以下同)が石川県金沢市を訪問することになった。だが、小松空港では政府専用機を受け入れることができないことが判明。急きょ、マレーシアから小型機が呼び寄せられることになる。首相が目指した先はエフイーシー。従業員20人足らずの「町企業」を中心に国家プロジェクトが動き始めようとしていた。 次世代チップ勘と縁で活路、金沢の技術、国家事業に2004/1/27 ![]() 「わずかコンマ4ミリの世界ですから実感がないわけですよ」 エフイーシーの一岡社長によれば、同社を訪れたマハティール首相はRFID(無線による個体認識技術)チップに関する説明をひと通り受けた後、2,500倍の顕微鏡をのぞきこみ、レンズの下にある物体を自分の手で動かし始めたという。次世代のチップは本当に存在するのか? 「世界に誇るメードインマレーシア」を探し求める首相の並々ならぬ思いが伝わった。 バーコードに代わる技術と言われるRFIDには大きな将来性が期待されている。微小な無線チップによって人やモノを識別・管理する仕組みを応用すれば、ID(身分証明)カードとしての利用や紙幣の偽造判別、セキュリティシステムへの活用など様々な可能性がみえてくる。 「エフイーシーが開発したチップの技術をマレーシアが買い取り、MM(マレーシアン・マイクロ)チップとして世界に売りだす」 金沢から戻ったマハティール首相は9月の記者会見で、こう宣言している。 ■なぜ、エフイーシー 「マレーシアがIT産業の新しい技術を探していると聞き、コンタクトを取りました。反応は早く、2週間ほどで返事がきたように記憶しています。最初は半信半疑でした」 技術にほれ込んだ首相の強力なバックアップで、プロジェクトは加速度的に進む。金沢の町企業は今、クアラルンプールの中心部にオフィスを構えている。 この分野でのエフイーシーの強さは2つ。「コストを抑えたのとオールバンドへの対応」(一岡社長)だ。 地元紙の報道によると、マレーシアがIDカードとして導入しているマイカードの生産コストは1枚当たり約7リンギだが、MMチップの利用によって、これを1リンギにまで圧縮することができるという。 オールバンドへの対応とは、例えば空港での手荷物認証にRFIDの技術を応用したとする。論理的にはカード情報を読み取る機械さえあれば、世界各地で共通システムを導入することが可能なのだが、現状では各国によって情報波数の域体が異なるため、日本の空港から出た荷物を米国の空港で同一情報として読み取ることができない。「世界中で使われている13.56メガヘルツ〜2.45ギガヘルツまで、すべてをカバーしたところに(エフイーシーの)強みがある」(一岡社長)というわけだ。 ■苦戦の連続 順風満帆に見える同社だが、一岡社長はここにくるまで、少なくとも2度は苦杯をなめたと振り返る。 約8年前、金沢の精鋭部隊はテレビのデジタル時代到来を予測して小型アンテナの開発に乗り出した。「品質は認めてもらえるものの、会社の知名度がない」。メーカーへの行商では苦戦の連続。何よりデジタル化の波が予想より緩やかだったことが痛手となった。 その後日本はPHSブームに沸く。エフイーシーの内蔵アンテナ技術は引っ張りだこだった。だが周知の通り、ブームは長く続かなかった。 ブレークスルーのきっかけは、6年前のヨーロッパ視察で見出した。 当時はあまり知られていなかったICカードを目の当たりにした一岡社長は「これはいける」と直感。独自技術の開発に成功したころ、今度は新聞記事を頼りに韓国に向かう。社長自らが乗り込んだのはサムスン電子。韓国が官民を挙げてICカードの実用化に取り組んでいる、との報道は正しかった。 2000年11月にサムスンSDSと提携。今では韓国の銀行11行などがエフイーシーの技術を採用している。 成功の原動力は「勘と縁」と明かす一岡社長。開発資金を融資してくれた金融機関への思いもあり、「常に引くに引けない状況にあった」のも事実だ。 趣味は釣り。「昨年1年間はまるで釣りをする時間がなかったが、今年の夏以降には何とか」と話す。 3月中旬には進捗状況の報告もかねてアブドラ首相と面会する予定だそうだ。(インタビュー・石橋正樹) >>この目次トップへ[P R] [P R] [P R] |