大阪物療大学教授・加藤久典さん


1964年、神奈川県生まれ。Centre of Asian Studies(ジャカルタ)研究員。シドニー大学博士課程終了。インドネシアのイスラム教と社会・文化をフィールドとする研究を通じ、数多くのイスラム指導者らと親交を深める。元大統領の故ワヒド氏とは生前、「日本のおせんべいがあるよ」と誘うと自宅に遊びに来てくれたり、脳梗塞で倒れた時にはベッドの脇でたわいのない話をしたりしたことが懐かしい思い出だ。

自分の目で見て判断する大切さ

2011/12/1

大阪物療大学教授・加藤久典さん

インドネシアのイスラム教に強く関心を持ったのは、人を動かす力がある宗教、政治的な力を持つ宗教とは、いったい何だろうかと考えたからだ。研究を進めていく中で、イスラム自由主義者と原理主義者の両方に出会った。国内最大規模を誇る伝統派のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマの議長を務めた故ワヒド氏や、イスラム原理主義者を代表するアブバカール・バアシル氏などだ。

バアシル氏の自宅を訪れた時は、客である自分にお茶を入れるよう幼い孫に頼んでくれたり、報道写真で見るような白装束ではなく普通のTシャツを着ていたりして、どこにでもいそうな普通のおじいさんだった。過激派といわれるイスラム防衛戦線(FPI)のメンバーは、夜遅く公共バスで帰宅する自分を心配して「これを着けていれば危なくない」と、FPIのバッジを手渡してくれたこともある。

■原理主義者は怖い人なのか

本当の意味で原理主義を貫く人たちは、一度口にした約束は必ず守り、とても純粋で正直。本当は心優しいはずの人たちが、イスラム教の断食月(ラマダン)に夜間営業する店を襲撃するなど、時に暴力的な行為に出るのはなぜか。彼らの生活や置かれている社会の状況を自ら見聞し、その背景を知った上で、彼らの行動の理由を理解しようとする必要があると思う。

原理主義者のことを全く知らないまま、怖い人たちだと思い込んでしまうのは悲しい。もちろん暴力行為は許せないが、原理主義者か自由主義者の片方に賛同するのではなく、ひとりの人間としてどちらも何ら変わりがないはずだと信じている。彼らを同じ土俵の上に乗せ、双方の考えをきちんと評価することが大切だ。4年の歳月をかけてイスラム原理主義者と自由主義者の主張をまとめ、分析した著書「The Clash of Ijtihad Fundamentalist versus Liberal Muslims」は、そんな思いからつづった。

2001年の米国同時多発テロ以降、イスラム教に対する見方が厳しくなっている。研究を通じて知り合った友人らの意見を、学者として客観的に伝えたい。特に欧米の人たちにイスラム教に対する理解を深めてもらいたい。この本がひとつの参考文献として、われわれ異教徒がイスラム教にどう対応すればいいのかを考えるヒントになればと願っている。

自分の研究結果が時空を超えて次の世代へ伝えられ、インドネシア人や日本人だけに限定せず、ほかの国でも役立ててもらえるようになる。そんな意義のある研究を続けていきたい。

■先入観を打ち砕く国際交流を

大阪府堺市で行われている東南アジア諸国連合(ASEAN)との国際交流事業のプロデューサーも務める。ジャカルタのナショナル大学で日本語と日本文化について教えた経験を踏まえ、同大学のほかASEAN5カ国の学生らを日本に招き、市内の小学生らとの交流活動を行っている。

インドネシアは汚い国、テロリストの国という先入観が日本人にあるとしたら、その悪いイメージを打ち砕き、新しいイメージを作る想像力を持ってもらいたい。そのためにはその国の人と直接会って話を聞いてみることだ。外国の人についてネガティブなことを言う人たちがいれば、それは違うんじゃないかと指摘できるようになることが、本当の国際交流のあり方だと考える。研究者としての仕事とはまた違った形で、インドネシアの良さを日本の人に伝えていきたい。

「現場主義」をモットーとする姿勢は、ライフワークとする国際交流活動でも揺らぐことはない。(インドネシア編集部・山本麻紀子)

>>この目次トップへ

[P  R]

[P  R]

[P  R]

Yahoo!ブックマークに登録Yahoo!ブックマークに登録