台湾新時代〜馬政権1周年特集〜

台湾の馬英九政権が5月20日で発足1周年を迎えた。

前駐日代表や中台交流窓口機関トップに、馬政権の対日外交の評価や今後の中台協議の課題を聞いた。

週刊誌「新新聞」楊偉中・取材主任

日台の平等な外交関係の構築を

週刊誌「新新聞」楊偉中・取材主任

馬英九政権発足1周年特集の最終回となる第3回目は、週刊誌『新新聞』の楊偉中・取材主任に、台湾政治の現状や中台交渉について尋ねた。中台は“あいまいさ”を保つことで長年の懸案とされた問題解決の糸口を見つけたが、台湾社会には急速な改善ぶりへの不安もあると楊氏はみている。【志村宏忠】

週刊誌「新新聞」楊偉中・取材主任

週刊誌「新新聞」楊偉中・取材主任

週刊誌「新新聞」楊偉中・取材主任

―現政権で馬英九総統の判断や決定に影響力を持つのは誰でしょうか。

「問題によって違いますね。対中関係や安全保障は蘇起・国家会議秘書長、高朗・総統府副秘書長、内政は劉兆玄・行政院長、経済は蕭万長・副総統が少し発言力があります」

―支持率が低下した時期や世界同時不況などもありましたが、この1年をなんとか乗り越えて馬総統は自信を持っているように見えます。

「馬総統の内面の心理までは分かりませんが、『最悪の時期は脱した』とは思っているでしょう。邱正雄・行政院副院長を中心とする経済チームは比較的信頼できます」

―では低迷する民進党は建て直しを図れるでしょうか。

「難しい。昨年5月に蔡英文氏を主席に選びました。新しい希望、新たなブランドになると期待された。しかし、党内の派閥抗争や(逮捕、起訴された)陳水扁・前総統の問題もある。主席ひとりでは解決できない。台湾には強い野党が必要ですが、現在の民進党は批判はするものの代替案を持っていない」

―国民党に近い地元メディアは、現主席の任期満了に伴い、馬総統が兼任すると報じています。

「馬総統の狙いは主席を兼任することで国民党内に影響力を発揮することでしょう。馬総統は呉伯雄・現主席や王金平・立法院長に比べると地方での影響力が弱い。(国民党政治の潤滑油である)利益の配分はうまくない」

―海峡交流基金会の江丙坤董事長の辞任騒動はどうみますか。

「国民党の内部闘争でしょう。内部闘争は馬氏が総統に就任した時点から始まっています。江董事長は総統選挙の時、中国に進出している台湾系企業(台商)から選挙資金を集めて勝利に貢献しました。交渉の才能もあるので海基会の董事長に起用されたのですが、自身と息子の中国でのビジネスの問題をうまく処理できなかった」

―台湾の世界保健機関(WHO)年次総会のオブザーバー参加が実現しました【注1】。現政権と中国の交渉を通じて合意したと言われますが。

「現政権はもちろん、中国が『許可』したから出席できたとは言いません。しかし、国際関係から見ると中国の『了解』が必要となります。そうでなければ米国にも日本にも台湾を参加させる力はありません」

「民進党は中国の『許可』で出席できたと言いますが、それは過去8年の与党時代の努力を自ら否定することになります。与党の支持者と野党の支持者が反目する台湾は、高度に分裂した社会ですから意見がまとまりません。馬総統は4月末の記者会見では『与野党の共同の努力で実現した』と話していました」

【注1】1971年10月に国連を脱退して以来、台湾が国連特別機関の活動に参加したのは38年ぶり。ジュネーブで行政院衛生署の葉金川署長は、渡辺孝男・厚生労働副大臣と閣僚級会談に臨んだ。

―これから恒常的に出席できるのか、単年ごとの出席なのかよく分かりません。

「その辺があいまい。現時点では毎年申請してWHO事務局からインビテーションをもらって参加する必要があるようです。オブザーバー参加の中身自体もあいまい。WHOと中国の覚書【注2】の存在もあいまいです」

【注2】中国とWHO事務局が2005年に結んだ。公表はされていないが、WHO事務局が台湾と直接、技術交流や支援する場合は事前に中国に通知し、中国の許可が必要と規定されているという。

―現在の中台の協議には、こうしたあいまいさが付きまといます。

「中国と台湾は過去20年ほど衝突や協議を続けてきました。現在の中台協議でも台湾の主権問題には触れていません。あいまいであることが中台問題解決の新しい糸口になったと言ってもいい。馬総統の肩を持つわけではありませんが、そもそも台湾の主権や国際的な立場自体があいまいとも言えます」

―中台関係の改善が早過ぎると感じている台湾人は多いと思いますが。

「そういう声は多いですね。台湾は高度に分裂した社会ですから、『台湾一般』という言い方はできません。しかし、半分ぐらいはそう感じていると思います。昨年の総統選挙で馬総統に投票した有権者の一部にも不安を持つ人がいます」

■馬総統、2期は大胆に

―馬総統はそうした不安が分からないのでしょうか。

「馬総統も政治家生活が長いですから、分からないはずはないでしょう。ですが、総統就任当初から準備が足りていませんでした。将来の中台関係の展望をほとんど示していません。ただ現状維持を語るだけ。中台関係を正常化させるに当たり、反対する野党にどう説明するのか、住民の不安をどう取り除くのか。これらに対する準備ができていません」

―馬総統は2期8年の政権を前提に、中国との和平協定の締結も視野に入れているようですが。

「仮に和平協定を結ぶにしても2期目でしょう。今年12月の統一地方選挙、次期立法院選挙で国民党が勝ち、次期総統選挙で馬総統が再選すれば、2期目は中台関係でさらに大胆になる可能性もあります」

【メモ】週刊誌『新新聞』(英語名:ザ・ジャーナリスト)は1987年3月に創刊。新新聞文化事業(本社・台北県汐止市)が発行している。台湾の政治・経済・社会問題のほか、国際問題も報じる。「批判精神に富んだ週刊誌」と称している。

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