フィリピン万華鏡国際アナリスト フレッド吉野 ペソ安と原油価格の高騰今、フィリピン経済を圧迫している二つの大きな問題として通貨ペソの下落と原油価格の高騰がある。まずペソ安だが、現時点(9月26日)で1ドルが46.245ペソと最安値をつけ崩落が続いている。現地の新聞紙上では識者がペソ安問題をいろいろ分析しているが、ここでは筆者の考えや反論をそれらにぶつけてみたい。 『インクワイラー』紙のコラムニスト、デニス・アロヨ氏はペソ安はまず輸出に拍車がかかるから有利だと主張、さらにペソ安で輸入品が高くなれば国内での輸入代替を刺激するのでフィリピン産業にとってむしろ好都合だという。筆者はラサール大学と大学院で経済学と経営学を講じているのでアロヨ氏の教科書的で理論的な説明は充分うなづける。しかし、経済学の理論はすべて「他の条件が一定の場合」という限定がつく。 フィリピンに関して言えば、残念ながらアロヨ氏のペソ安歓迎説は現実にはあてはまらない。この国が輸入しているものは原油や素材、ハイテク部品などが主で、ほとんど代替不可能といってよいからだ。楽観的にみれば中長期的には高度な技術を要する資本財、中間財の生産ができるようになるかもしれないが、現時点では無理な話でしかない。ペソ安で輸入代替へのインセンティブが効いても、代替を実行する技術水準に達していないし、そのポテンシャルも低いからだ。しかもペソ安で原材料の輸入が減れば、その分だけ輸出も減少せざるを得ない。というのもフィリピンの輸出産業はほとんど海外から部品を輸入したものを組み立て・加工して輸出するという構造になっているからだ。アロヨ氏はこのような輸入と輸出の相関関係をあまり考慮せず、単純化した議論を展開しているように思われる。 一方、アジア経営大学院のロムロ・ネリ教授は現在の状況で中央銀行が通貨の買い支えを行うのは問題ない、と『ビジネスワールド』紙で述べているが、筆者はこれにも異論がある。教授の言い分は、フィリピンには現在160億ドルを越す潤沢な外貨準備があるので、それを使って中央銀行は積極的に市場介入を行い、断固ペソ防衛すべしというものだ。さらにネリ教授は通貨危機が襲った97年にペソを支えようとしたのは間違いだった、なぜなら当時は1ドルが28ペソと過大評価されていたからだと言う。過大評価されているときは放任しておくべきで今回のようなペソ安の場合は介入すべきだというのが理解できない。外貨準備が160億ドルといっても国際為替市場では大海の一滴でしかなく、それでペソを買い支えようとしても大損するだけだ。 筆者はペソは下がるべくして下がっていると判断している。膨大な財政赤字、エストラーダ政権の腐敗、クローニーズム、原油高、ミンダナオ情勢などその要因は枚挙にいとまがない。むしろまだ下がりきっていないと言って過言ではなかろう。 では次に原油の問題に移ろう。『インクワイラー』紙でリゴベルト・テイグラオ氏はフィリピンの現在のガソリンの値段は購買力を基準にした実質価格ではそれほど高くない、と数字を挙げて分析している。それによると88年を基準年にした1リットル当たりのプレミアム・ガソリンの実質価格は2000年9月時点で 6.2ペソ、91年は9.4ペソ、90年は7.6ペソ、89年は7.6ペソ、88年は6.9ペソとなっている。要するに、今の値段は過去に比べると格段に高いというわけではないというのが同氏の主張である。 確かにそれはそうだが、91年は湾岸戦争があった年でそのために原油価格が跳ね上がったという特別な経緯があり、同列には語れない。しかも、93年から99年までは5〜4ペソ台で推移しており、今年9月の6.2ペソはかなり厳しい値段だ。80年代後期は第2次石油ショックの余波やクーデター、停電などでフィリピン経済が停滞、ペソも大幅に下落し原油の輸入価格が上昇したという特殊な背景がある。従って、その時期と比べればガソリンの値段が高くないという議論には無理があろう。要するに条件が異なるのに、購買力だけを基準にしてあれこれいうのは経済学の世界では許されるかもしれないが、現実の事象を分析するには単純過ぎるのでは? とにかくフィリピンのガソリンは収入からみれば高すぎる。しかし、原油やガソリンの値段を簡単に下げるわけにはいかない。となれば解決策は、収入の方を増やすしかないのだ。では、賃金を上げればいいかというとそうではない。給料を高くすると他の物の値段に跳ね返りガソリンの値段も上がってしまう。要するに、生産性を上げて、外資をどんどん稼ぎ、国民一人一人がもっと豊かになるように努力することが有効な方策だ。だが、これは一朝一夕には実現しない。もう一つは日本がやったような省エネを実践することだ。電力にしても太陽熱、地熱、風などを利用した発電をもっと推進すべきだろう。 [P R] [P R] [P R] |
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