香港  2009年3月13日(金曜日)
【特集・サウスチャイナリポート】ワーキングホリデー導入、若者の交流促進へ弾み[観光]

日本と香港の間で、働きながら留学することを可能にするワーキングホリデー(WH)制度を導入することが決まった。親日家が多く、一定の日本語学習熱もある香港の若者は、この制度をどう見て、活用するのか。WHは交流促進の起爆剤となるのか。【香港華南版編集部・山川亜沙美】



今年は日本香港観光交流年に当たり、両地の交流がますます活発化している。日本を公式訪問した曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官は2月16日、中曽根弘文外相と会談し、WH制度を導入することに合意した。若者世代の交流を深め、さらなる友好関係強化の基盤としたい考えだ。

WHは2国・地域間で、青少年が一定期間の休暇滞在と、その間の滞在費を補うための就労を認める制度。香港は日本のWHの相手先としては10カ国・地域目になる。アジア地域の相手先では1999年からの韓国に次いで2カ所目。詳細は現在両国・地域間で協議中だが、外務省は「できるだけ早いうちに発表したい」と話しており、香港政府は「卒業シーズンに当たる6〜7月にも開始したい」と意欲的だ。これまでの例から申請資格は18〜30歳、滞在期間は最長1年程度となることが有力だ。

香港政府は2001年からWH制度を定め、これまでにオーストラリア、ニュージーランド、アイルランドとの間で実施しており、日本は4カ国・地域目。いずれの場合も申請資格は18〜30歳、香港またはBNОパスポート(英国海外居民パスポート)を所持していること、一定金額以上の経済力の証明などが条件だ。08年末までに同制度は6,100人の利用実績がある。

現在最も人気があるのはオーストラリアで、年間1,000人の枠が毎年ほぼ満員になるという。このほかニュージーランドで200人、アイルランドで100人。日本との間でどの程度の募集枠が確保できるかは未定だが、曽行政長官は「柔軟に対応する」と強調している。

■日本語学校、反応冷ややか?

日本の文化が人気の香港では、「もっとテレビ番組や雑誌の内容を理解したい」という理由で日本語を学習する若者は少なくない。今月行われた日本留学説明会で、日本留学を目前に控えた女子学生は、「日本が好きだから。もっとしゃべれるようになって色んなことを知りたい」と目を輝かせた。ただ将来、日本語で仕事をするかについては「そこまでは考えていない」。

香港で留学先と言えば、欧米が一般的。日本留学はごく少数派だ。日本に憧れはあるものの、日本語は「あくまでも趣味の延長」、「実利はやっぱり英語」という傾向があるようだ。

日本語学校のアジア学生文化協会(東京都文京区)によると、日本に長期留学する香港人学生は年間200〜300人という。「そもそも希望者が少ない。WHが学習者増の契機になるかは疑問」との見方を示している。

また「香港人学生の受け入れ人数は年間1〜3人」と話す東方国際学院(東京都江戸川区)は、「香港は中国本土などに比べて、日本の就学ビザの審査はそれほど厳しくない。WHができるようになったからといって、途端に希望者が殺到するようなこともないのでは」とみている。

文化庁の調べでは、日本にいる外国人の日本語学習者数は、07年度実績で◇1位:中国本土(6万5,000人)◇2位:韓国(2万8,000人)◇3位:米国(6,000人)――。先にWHが導入された韓国について、複数の日本語学校は「学習者の増減はWH制度ではなく、むしろ景気が左右した」と口をそろえる。

■「興味あり」9割超、中文大

香港中文大学(専業進修学院)日本語学科の2年生45人にWHについて聞いたアンケートでは、「とても興味がある。機会があったら申請したい」と回答した学生が全体の75%を占めた。「まあまあ興味がある」(16%)を含めると、9割以上に達した。理由として挙げられたのは(複数回答)◇日本の生活を体験したい(18人)◇自分の学習成果を試したい(12人)◇日本で就労経験を積みたい(6人)――など。

日本での就労経験は将来的に日本企業で働く際に有利、と考える学生は少なくなく、日本式のビジネスマナーや接客を学びたいという意見は多かった。また一般の留学よりも金銭的負担を軽減できることから、手の届きやすい留学として考慮している傾向があった。

興味のある学習分野は◇日本文化、生活習慣(11人)◇日本語全般、翻訳・通訳(10人)◇芸術、音楽(7人)◇ビジネスマナー、商習慣(6人)◇観光・ホテル業(5人)◇美容(4人)◇アニメーション(3人)◇その他(調理・製菓、宝飾、ペット、各1人)――など。日本のポップカルチャーは香港の若者に深く浸透している。WHは若い観光客や留学生の誘致に有効な手段と言えそうだ。

一方、「あまり興味がない」は9%。理由としては◇資金不足(7人)◇定員が少ないのではと不安(2人)◇期間が短い(2人)◇制度内容の詳細をみてから・まだ語学力に自信がない(各1人)――などだった。今後決定する内容次第では、興味を持つ学生も増えるはずだ。

■求人はあるか

WHは就労により生活費を稼ぐことが出来るが、日本ではどの程度香港人が働ける求人があるのか。他国・地域からののWH実績では、就労先はコンビニエンスストアや飲食店、語学教師などが主な就労先となっている。

では、日本の若者が香港に来た場合はどうか。失業率が上昇傾向で、香港人さえ就職にありつけない今、専門家の意見は厳しい。城市大学の関係者は「これだけ景気が低迷している時期に、日本の若者に提供できる求人があるのか」と疑問を呈している。「長期的な仕事が今は少ない。観光大使や日本語教育アシスタントなど、政府がWH向けに特別な枠を設けない限り難しい」と指摘する。

■日本人は香港を目指すのか

日本人にとって香港へのWHはどのようなメリットがあるのか。例えば中文大学では日本からの留学生は交換留学がほとんどで、個人で香港に留学するケースは少ないようだ。日本人にとって香港に留学する利点が見えにくいことが原因といえそうだが、香港ももっと、日本の若者にアピールする機会を作る必要がある。日本ワーキングホリデー協会は「まだ数えるほどだが、香港への問い合わせはある」と話している。

日本国際観光振興機構(JNTO)香港オフィスの田口一成所長は、滞在中の住宅事情の難しさを挙げる。まず「長期滞在では、家賃の高さがネックになるのではないか」。またホームステイをするにしても、「そもそも家が大きくなく、家族全員で暮らす人の多い香港では、他人を受け入れる余裕のある家ばかりではない」と述べた。

学習環境については「英語を学ぶには欧米に後れを取る部分もありそうだが、中国語をやる人にとっては、本土に行くより安全で信頼性があるというイメージで来る人がいるのでは」と話している。

田口所長はWHを「日本が好きな香港人との交流が増えれば、香港をよく知らない日本人も、香港人や香港に対するイメージがもっと良くなるはず」と今後の展開に期待を示した。

昨年日本を訪れた香港人は、前年比27.3%増の55万人。国・地域別では4位だ。数では上位3位の韓国(238万人)、台湾(139万人)、中国本土(94万人)におよばないものの、伸び率では1けた台も目立つ上位10位のなかで群を抜いている。日本から香港を訪れた旅客は約132万人。ここ3年間は130万人台で推移しており、目立った増減はない。

不況の今だからこそ、すぐに就職せずに時間を自己投資に使う若者が増えることも予想される。景気好転の際、WHで培った経験を花開かせることができれば、お互いにとって頼もしい存在となるのではないか。<香港>

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