ベトナム・インドシナ  2009年11月20日(金曜日)
日本支援のホアラック・ハイテクパーク、地元で技術者育成[経済]

ハノイ市西部にあるホアラック・ハイテクパークは、完成すれば総面積1,586ヘクタールのベトナム最大の工業団地となる。日本とベトナムの3大プロジェクトに挙げられ、国際協力機関(JICA)が開発計画にかかわっている。単なる工業団地でなく、住居・教育施設を備えた筑波のような研究学園都市が目標。自前で技術者を供給する体制を目指す。開発途中のホアラック・ハイテクパークを訪ね、現状を取材した。【吉岡由夏】















ハノイ市中心部から、土埃の舞う建設途中の高速道を1時間余り西に走ると、広大な敷地のホアラック・ハイテクパークに到着する。敷地内の道路は整備され街灯も設置されているが、科学技術省傘下の管理委員会事務所やベトナム情報技術試験訓練支援センター(VITEC)の建物がぽつりぽつりと立つだけで、多くはまだ造成前の草原だ。

管理委員会委員長のアドバイザーを務める日本貿易振興機構(ジェトロ)の松本時男専門家によると、国内にあるもう1カ所のハイテクパーク、サイゴン・ハイテクパーク(ホーチミン市)より早い1998年に計画されたものの、本格的にスタートしたのは2006年。当時の安倍晋三首相が日本の支援検討を約束してからだった。

総面積1,586ヘクタールのうち、中心となるハイテク工業団地は549.5ヘクタール。ほかに研究開発ゾーン(229ヘクタール)、ソフトウエアパーク(76ヘクタール)、教育・訓練ゾーン(108ヘクタール)から成る。加えてゴルフ場や住宅、娯楽施設、ホテル、病院なども完備される。

ハイテク工業団地は100社以上が入居できる広さがあるが、現在操業しているのは12社で、このうち帝国通信工業の完全子会社ノーブルエレクトロニクスベトナムなど2社が日系企業だ。投資認可を受けているのは計37社で、投資認可額は総額10億米ドルを超えるという。

■居住者22万人

松本氏は「単に工場集積地というだけでなく、住・教育環境も含めた多機能性がここの魅力」と力説する。2020年には居住者22万人のハノイの衛星都市を目指す。

団地内と周辺に3大学を建設し、ハイテク産業への人材供給が地元で可能になる点を「ほかの工業団地にない特長」と強調する。サイゴン・ハイテクパークには現在、入居企業が設立した職業訓練センターはあるが、大学はない。大学が3校も建設されることはホアラックの強みになるだろう。

教育・訓練ゾーンでは現在、地場情報技術(IT)最大手のFPTが、敷地面積30ヘクタールのキャンパスを建設中だ。2015年に完成した暁には、1万人の学生が学ぶマンモス大学になる。

ほかに科学技術大学、ベトナム国家大学が建設されるほか、宇宙技術研究センターの設立も検討されており、同ハイテクパークの1つの目玉として考えられている。

税制優遇措置と土地賃料の安さも、ここの魅力だ。ベトナムでは今年1月1日から、輸出加工区を含む工業団地への新規企業に対する優遇制度が廃止されたが、ハイテクパークに関しては現行法令がほぼ引き継がれ、優遇措置が適用される。

土地賃料は、他の工業団地と同じく入居時に50年分を前払いする形式。年間1平方メートル当たり0.3〜0.7米ドルと、日系工業団地に比べると半分以下の安さだ。地場民間が開発する工業団地と比べても安い。さらに、研究開発ゾーンと教育・訓練ゾーンの土地賃料は無料で、技術開発に力を入れていることが分かる。

■気になるインフラ

ベトナムでは、インフラを完備して入居企業を募集する工業団地は少なく、インフラ整備と入居募集を同時進行させるケースが多い。ホアラックも例外ではないが、ある程度まで整備されており、第1号排水処理工場と変電所1号(出力3×63メガボルトアンペア)がすでに完成している。

管理委員会によると、これまでに土地造成、移転、給水、排水処理などに総額1兆4,857億6,500万ドン(8,312万米ドル)の国家予算が投じられたという。これはホアラック開発予算の95%に当たり、ベトナム政府はさらに日本などに支援を要請していく考えだ。

ホーチミン市のサイゴン・ハイテクパークと比べると、都市部や港湾から離れている立地条件の悪さが、開発が遅れた原因の一つと考えられるが、建設中の高速道路(高速6車線、一般道4車線の計10車線)が2010年末に完成すると、ハノイ市中心部までの所要時間は現在の半分近くに短縮される見通しだ。

商品を荷積みするハイフォン港までは現在3時間弱かかるが、ハノイ市内を迂回(うかい)する道路が建設中で、これが完成すると約2時間になる。また、昨年10月には団地内に税関が設置され、格段に便利になった。

■急がれる無停電化

「ハイフォン港への所用時間は大した問題ではない」とノーブルエレクトロニクスベトナムの荒木正昭社長は言う。それより問題なのは停電の発生だ。ベトナム北部では全体的に発電量が不足していると言われ、電力が少ない7月などは計画停電が週1回程度の割合で起きる。計画停電は工場操業日でない日曜日が多いものの、念のため発電機1台を置いている。

同社はデジタルカメラ、ビデオカメラなどデジタル携帯機器向けのICB(集積化操作ブロック)などを生産する。世界同時不況で今年上期は稼働率が3割程度落ち込んだが、7月に通常に戻り、10月には生産ラインを増設した。工場は1日20時間、週6日稼働しており、停電すれば影響は大きい。

「成型部品工場の増設にまだ踏み切れない」(同社長)のは停電問題があるからだ。ベトナムの他の工業団地と比べると発生率が少ないとはいえ、「無停電化」の早期実現が荒木社長の願いという。

帝国通信がここに進出した大きな理由は、中国、タイ、インドネシアを結ぶ中継地点にあること。同社は中国・広東省東莞、タイ(2カ所)、インドネシア・バタム島に工場があり、ハノイはこれらを結ぶ「連携工場」の役割を果たす。

現在、タイから部品を週1度、東西回廊を通る定期トラック便で運んでいる。所要日数は3日で、船より10日以上早い。コストは船の3倍ほどで、5倍かかる空路に比べると格段に安い。将来的に道路整備が完了し、シンガポール〜中国を結ぶ陸上輸送が始まれば、中国、ベトナム、タイ、バタム島の工場が1つに結ばれることになる。

■国の重点産業に

ハイテクパーク内の草原では、周辺の農家が水牛を放牧する、のどかな風景がみられる。松本氏によると、研究開発ゾーンは、ようやく9月に造成工事に入ったばかり。ハイテク工業団地以外の用地も徐々に整備が始まっている。

ベトナム政府は2011〜20年を対象とした経済・産業分野の長期計画「社会経済10カ年戦略」で、重化学工業とハイテク産業に軸足を移す方針を示しており、ハイテクパークの整備は今後加速すると期待される。

サイゴン・ハイテクパークに先を越された感があるものの、インフラ整備や高速道路の整備が進めば、ホアラックの入居企業は増大するだろう。ベトナム政府は10月、ホアラックに対する政府開発援助(ODA)を日本政府に要請したと伝えられる。「未来の筑波」に注目が集まっている。<ベトナム>

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