香港  2009年12月17日(木曜日)
【マカオに賭けた日本人】住友ベークライト・マカオ山口千世蔵社長・山本圭児マネジャー[製造]

■カジノの街でものづくり、本土緊密化に期待

“カジノと世界遺産の街”との印象が強いマカオで、電子材料の加工を行う日系工場がある。製造業の視点から見たマカオの近況と将来への期待、また、駐在員生活の変化とは。住友ベークライト・マカオの山口千世蔵社長と古参駐在員の山本圭児マネジャーに聞いた。【香港華南編集部・岩田圭祐】



――まずマカオ事業の概要を教えてください。

山口:当社の屋台骨は、世界シェア30%強で首位を占める半導体封止材。他に産業用高機能プラスチックや薬品包装なども手掛けています。

マカオ工場が属するのは、全社売り上げの約2割を占める回路製品事業で、広東省の電子部品メーカーがターゲット。エポキシ樹脂銅張積層板という電子材料を生産しており、客先(電子部品メーカー)でこれに回路を描いて穴を開け、プリント回路板に加工。最終製品としてはテレビ、AV機器が中心になります。

――工場の設立地としてマカオを選んだ理由は。

山口:当社の場合、工程でみると設備型。原材料を購入し、含浸してプレスします。実装や外観検査などに人手を要するプリント基板メーカーなどと比べ相対的に人が少なく、人件費はさほど問題になりません。

もう1点は電力。進出先を検討していた2000年ごろはまだ本土で電力供給の不安定さが問題でした。他の利点としては低税率やシステムの明朗さもあります。そんな面で華東、華南、ベトナムなどを総合的に比較してここになりました。

――華南のメーカーとの取引でマカオ工場に不利な面はありませんか。

山口:トラック輸送で朝出せばその日のうちに着けます。取引先は珠海、広州、深セン、東莞などですが、3時間ほどで行けます。

さらに電子材料のため、取引先からジャストインタイム納入の要求も少ない。電子部品であれば、メーカー在庫を減らすため毎日2便、3便仕立てなければならず、納入先ともっと近い必要が生じていたでしょう。

私も来るまでは「なぜマカオなのか」と思いましたが、インフラがしっかりしていて設備型に最適。そういう面では悪い立地ではありません。

――99年のマカオ返還から2年後に進出していますが、当時から変わった点などはありますか。

山本:工場着工が2001年、生産開始が03年で、私は04年に来ました。一番大きく変化したのは、この工場から見える風景。今大きく見えるザ・ベネチアンの辺りは、来た当時は埋め立てをしているところで何もありませんでした。

当時は自宅のあるタイパからコロアネの工場の方を眺めると、さらに向こうに昔のポルトガル人居住区が見えました。周囲は湿地しかなく静かで良い雰囲気でした。それが今は大きなカジノが光っています。にぎやかになったのもいいですが、少し寂しい面も感じますね。現地スタッフもよく「経済が豊かになったのは良いけど、随分変わっちゃったな」と思うところは見せています。

――事業面で進出後、転機となった出来事などはありますか。

山口:この6年で一番大きかったのは昨年のリーマンショックでしょう。マカオも本社も販売がかなり落ちたし、まだ多少影響も残っています。マカオ進出後、順調に伸びていたところにドンと落とされた形。

山本:その前、2007年ごろ経済が良かった時期は転職活動がとても活発でした。大きなカジノが一つ出ると何千人単位で採用するため、人の移動はどうしても多くなります。昨年からは下火になっていますが、急激な経済成長を遂げた分、一昨年までは人の出入りが多かった。

――人件費やその他事業環境変化も大きそうですね。

山口:すでに先進地域であり、インフラそのものは当時も今も変わりません。人件費は経済に連れて当然上がりますが、広東省などの上がり方と比べれば大きくはない。向こうの上昇率は想定外でしょうが、こちらは許容範囲内。

山本:工場の人員は中国本土の出稼ぎ者が中心ですが、本土より給与がいいということで自主的にやめる例は少なく利点となっています。オペレーションに訓練を要する設備型なので3カ月で人が入れ替わってしまえば非常に大変。マカオゆえに人が安定しているとも言えますね。

――返還後の中国本土との連携強化の動きは、中国向け出荷などでも恩恵を得られそうですね。

山本:経済緊密化協定(CEPA)により、マカオで作ったものが無関税で中国本土の客先に納められることになりました。もともと広東省は保税で納められるので直接の影響は少ないですが、輸出から国内販売向けに転じるところが増えれば有効。

――駐在員としての生活面で変化はありますか。

山本:治安は来た当時から良かったです。夜も出歩け、生活面では過ごしやすい。あとは日本のテレビ番組でマカオ特集が増えているようで、日本の知人の印象が変わってきました。昔はギャンブルだけで暗いイメージがあったようですが。

山口:私は日本から来たばかりですが「行ってみたい」という声はよく聞きます。初めての客はカジノも案内しますが、住んでる人はなかなかやりませんね。やはり赴任した当初にみな痛い目に合ってるんじゃないですか。

一番困るのは、日本人がまだ少なく日本食材が手に入らないこと。みんな香港まで買い出しに行っています。日本料理店もまだ少ないですし。

山本:生活の変化では、日本直行便ができたことも大きいですね。以前は香港経由。まず船で香港に渡り、フェリーターミナルから空港まで移動して、空港でまた待ち時間があってと1日がかりでした。

――この先10年でマカオはどうなって行くと思いますか。

山本:中国本土との関係は良くなる方向に進むのではないでしょうか。出荷・調達面でも港珠澳大橋ができたら大きいですね。

進出企業としては関係が密になれば恩恵を受けられます。取引先はボーダーの向こうにいますので、ビジネスにとっては良い動きですね。

山口:マカオの事業環境が急激に悪化することはないでしょう。すでに進出している立場としては、むしろボーダーの向こうの動きの方が気になります。中国自体がどう変わるのか。例えば広東省の日系が現地でもっと工場を大きくしていくのか、あるいは他地域に移るのか。ベトナム移管の話なども耳に挟みます。それが気掛かりですね。マカオは安定しているので基本的に変化はないでしょう。

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住友倍克澳門有限公司

(住友ベークライト・マカオ)

プラスチックメーカー、住友ベークライトのマカオ製造子会社。南部コロアネ島で2001年設立、03年操業開始。プリント基板の部品となるエポキシ樹脂銅張積層板を生産。月産能力60万平方メートル。山口千世蔵社長は今年10月、山本圭児マネジャーは04年から現地駐在。

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