香港  2009年12月18日(金曜日)
【マカオに賭けた日本人】La Bonne Heure(ラボナール)、曽根原功二さん[観光]

「仏料理シェフ、名店で修業した実力派」

日本人がマカオでフランス料理店――。一見変わった経歴を持つ曽根原功二さんだが、独立する前は老舗リスボアホテルにある仏料理の名店「ロブション・ア・ギャレラ」で修業した経験を持つ実力派シェフだ。26歳でマカオに渡り、28歳で自分の店をオープン。マカオで追い続ける夢を聞いた。【香港華南編集部・倉橋明日香】



――マカオに来た経緯を教えてください。

2002年にマカオに来ました。当時は東京のホテルで調理師として働いていましたが、フランスのロブションに行った同僚から、マカオのロブションが日本人の料理人を探している、試してみないかと誘われました。マカオのロブションは01年にリスボアホテルにオープン。フレンチの巨匠と言われるジョエル・ロブション氏が料理監修顧問を務めています。

マカオではそのころ、仏料理はあまり浸透しておらず、職人も少なかった。そこで、アジアで最も仏料理が受け入れられており、ロブションも進出している日本の調理師にヘルプに来てほしいとのことだったのです。話をもらった時はマカオについてほとんど知りませんでした。書店で調べようと思っても、マカオ関連の本がほとんどない。香港のガイドブックに付録的な説明がある程度でした。

誘われた時はまだ26歳。異国で挑戦してみようと思い、マカオ行きを決意しました。

――ロブションでの経験はどうでしたか。

ロブションでは約2年働きました。当時は約10人の調理師がいましたが、大半が香港人。日本人は私1人でした。マカオのロブションのオーナーはリスボアホテル。リスボアはカジノ客を呼び込むために、世界トップクラスの店を誘致したのです。

ロブションでの経験は良い勉強になりました。一流の食材を一流の器具で調理できますから。ただ調理の過程は、分量、温度、時間など全てが細かく決められています。一流の店では仕方のないことですが、料理を作る機械になった気持ちでした。

――その後、自ら店を立ち上げました。

04年にラボナールをオープンしました。マカオで仏料理店を経営していたフランス人の知人が、新たに店を出すことを検討しており、シェフとして招かれたのです。新しいことに挑戦したい気持ちが強くなっていた時期でもあり、ロブションを辞め、2人のパートーナーと一緒に店を立ち上げました。

――オープン当初の顧客の反応はどうでしたか。

最初の数年は苦しみました。仏料理の認知度はまだ低く、地元客がなかなか寄りつきませんでした。フランス料理は一部の富裕層のものというイメージが強かったのです。

オープンから2〜3年経過して、ようやく常連客が多くなってきました。そのころはフランス人のパートナーが帰国し、店全体の運営を任される状況になっていました。厨房で料理を作るだけではだめ。時間が許す限りホールへ出て、お客様と会話するよう心掛けました。

この時に広東語で話をすると、相手は驚き、親しみを持ってくれます。香港人、マカオ人に共通することだと思いますが、彼らは特別扱いされることを非常にうれしく思うようです。ホールへ出て挨拶をすると、お客様は「シェフがわざわざ来てくれた」と喜んでくれます。

お客様との距離が少しずつ縮まっていきました。今では顧客の8割が常連客です。料理そのものも大切ですが、接客の大切さを改めて実感しましたね。

――経済発展に伴い、地元住民の料理に対する見方は変わりましたか。

だいぶオープンになりました。生活水準が向上し、暮らしに余裕が出てきたためです。メディアも各国の料理を取り上げるようになり、食に対する見方が広がりました。

これまで地元住民にとって、洋食と言ったらポルトガル料理がほとんどでしたが、フレンチを含め、さまざまな国の料理に目を向けるようになりました。今では若い人たちも気軽に食べることができる身近な存在になりました。

――カジノやホテルの相次ぐ開業で、飲食店がひしめいていますが。

確かに飲食店は増えています。競争が激化し、飲食業界にとって厳しい状況になったとの見方もありますが、私はむしろチャンスだと思っています。

比較の対象が増えたことで、自身の店の強みをアピールしやすくなりました。一部カジノでは、豪華な料理を手ごろな価格で提供する店もあります。これはカジノにとって飲食店はあくまで客寄せという位置づけであるためです。

ラボナールは、ホテルやカジノの飲食店にはないアットホームな雰囲気が売り。お客様との触れ合いを大切にし、店自体を楽しんでもらうよう心掛けています。

――店を経営する上での課題は何ですか。

人材不足は深刻です。政府は地元住民の雇用確保を目的に、外国人従業員の引き締め策を行っています。ただ若い地元の人材は、給料の高いカジノで働くか、優秀な若者であれば海外留学してしまう。

私の店は洋食店なので、接客では英語が必須になります。ただレストランで働こうと思う地元の若者はとても少ないのが現状。政府の雇用政策は実状に沿っていないように感じます。

またマカオの飲食店は香港より安くて当然という、顧客からの暗黙の期待があります。もちろんマカオの賃料は香港より低いですが、食材の一部を香港から取り寄せるため、運送コストは高くなります。価格面でこうしたジレンマがあるのも事実です。

――7年間でマカオは変わりましたか。

返還後の変化は凄まじいと感じます。ウィンやMGMなどのカジノが集まる一帯は、私が来た当時は倉庫がある程度でしたよ。

最近では日本の若い女性たちがこぞってマカオに訪れるようになったことにも驚いています。昔は賭博の雰囲気が根強く残っており、若い女性が来るような場所ではありませんでしたから。

リゾート都市として発展を遂げたのと同時に、05年にマカオの歴史的建造物や広場が世界遺産に登録され、観光業にとっては全てが良い方向に進みました。

――今後の目標は。

もっと大きな物件に移ることも考えています。実は香港に出店する話もあるんですよ。ある方がここの料理を気に入ってくれ、一緒にやろうと。ただ店を増やすつもりはありません。1店で十分。自分で料理を作り、お客様との関わりを大切にしたいのです。それがラボナールの原点ですから。

…………………………………………………………………………………

La Bonne Heure(ラボナール)。曽根原功二さんが04年にオープンした仏料理店。曽根原さんは02年にマカオへ渡り、10年版ミシュランガイド(マカオ)で唯一3つ星を獲得した名店「Robuchon a Galera(ロブション・ア・ギャレラ)」で2年働いた経験を持つ。ラボナールは「良い時間」という意味。

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