インド 2010年3月10日(水曜日)
FTAがアジア戦略の要、税率や枠組みの把握を[経済]
世界経済におけるアジアの存在感が増す中、同地域にどう食い込んでいくかが日本企業にとって重要な視点になっている。こうした中、注目されるのは、アジアにおける自由貿易協定(FTA)ネットワークの拡大だ。今年1月には、日本企業の生産基地となっている東南アジア諸国連合(ASEAN)と、巨大市場として期待されるインドのFTA(AIFTA)が発効。インドでは高い関税率が事業の重しとなっており、同国での展開においてもFTAの活用が成功の鍵となりそうだ。【巣内尚子】
横浜インドセンターと日本貿易振興機構(JETRO)横浜貿易情報センターは9日、AIFTAなどについてのセミナーを開催。講師を務めたJETRO海外調査部アジア大洋州課の助川成也氏は、NNAに「たかが関税率と思わず、FTAをきちんと把握し、活用することが日本企業の事業戦略に欠かせない」と強調した。
AIFTAの発効を受け、「ASEAN+1のFTA」(ASEANと各対和国のFTA)は対日本、韓国、中国、豪州・ニュージーランドと合わせ、計5つに。これらに加え、二国間のFTAなどほかの経済協定も視野に入れた上で、どれを利用するのが最も効率的か検討する必要性が高まっている。
とりわけ、インドビジネスを手掛ける企業が高い関心を寄せているのがAIFTAだ。同協定が利用できるのは現在のところ、インド、シンガポール、マレーシア、タイの4カ国。フィリピン、インドネシアなど、ほかのASEAN諸国は今後に利用可能となる。
AIFTAによる関税削減のための基準時点は07年7月1日で、同日付の通常レート(特別品目除く)が算定に用いられる。また通常税率がAIFTAの税率よりも低い場合は、通常税率が適用される。
一方、注意すべきは、原産地規則。ASEAN自由貿易地域(AFTA)や、日本とASEANとの日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)などでは「付加価値基準40%」か「関税番号変更4けた」のいずれかの要件を満たせば原産地証明書が発行される。だが、AIFTAはこれらの協定よりも原産地規則が厳しく、「付加価値基準35%」と「関税番号変更6けた」のどちらも満たすことが原産地証明書の発行要件となっている。
■輸送機器は恩恵少なく
では、AIFTAではどんな品目が恩恵を受けるのか。助川氏によると、「精密機器など」は通常の関税率が7.8%だが、これが同協定により13年末には0.5%に、16年末には0.2%になる。通常の関税率が6.9%の「機械類および電気機器」は16年末には0.6%になるという。
さらに「鉱物性生産品」「化学工業生産品」「皮革・毛皮生産、ハンドバッグ」「木材製品」「木材パルプ、紙製品」「セメント、陶磁器、ガラスなど」「真珠、貴石、貴金属製品」「卑金属およびその製品」の関税率がAIFTAにより大きく下がる。
しかし、通常の関税率が30%と高い「輸送機器関連品」は、AIFTAの適用を受けても19年時点で19.6%と高止まりしたまま。インド政府は自動車産業を保護しているため、比較的高い水準に維持されるという。このため、日系の自動車関連メーカーの中では、「AIFTAを使わず、現地に直接進出する動きが出てきている」(助川氏)。
■進む拠点の統廃合
FTAネットワークが拡大する中、各社は最適な税率や効率的な事業形態を求めて拠点の統廃合に乗り出している。ASEANの日系電子・電気機器企業の生産拠点数は00年には79拠点だったが、09年には58拠点に縮小。助川氏は「FTAの拡大で企業が拠点の集約を進めるといった動きを把握しなければ、突然納入先を失うことにもなりかねない」と強調した。
同氏によると、04年9月に開始されたタイとインド間のFTAのアーリーハーベスト(早期実施)措置を受け、三洋電機はシンガポールのエアコン工場を閉鎖し、05年にタイに生産を移管。同国でエアコンを生産し、アーリーハーベストを利用してインドに輸出している。ほかの日系エアコンメーカーはインドでの生産を停止、タイからの輸入に切り替え、アーリーハーベストの利用手続きを行っている。また、トヨタ自動車はアーリーハーベストを利用し、インド工場で変速機を集中製造してタイに輸出。同国で生産している世界戦略車(IMV)にインド製の変速機を組み込み、全世界に輸出しているという。