シンガポール 2010年7月30日(金曜日)
和食の引き立て役、アジアへ:レシピ開発・料理学校で提案[食品]
少子高齢化に伴い日本市場が縮小しつつある中、日系食品会社は潜在的な大市場であるアジア地域の開拓に力を入れている。日本と需要や嗜好(しこう)が異なる海外でいかに商品を浸透させていくか。またシンガポールの地の利を生かしてどのような事業展開を進めているのか。シンガポールに進出する食品業界の動向を追った。第1回はキッコーマンとミツカンを取り上げる。
■巨大市場の開拓拠点
1983年にシンガポールに進出したキッコーマンは、当地に生産会社キッコーマン・シンガポール、販売会社のキッコーマン・トレーディング・アジア、シンガポール国立大学(NUS)と共同で食品研究開発を手掛けるキッコーマン・シンガポールR&Dラボラトリー、デルモンテ製品販売のデルモンテ・アジアを置いている。
キッコーマン・シンガポールはしょうゆやテリヤキソースなど約30種類を製造しており、シンガポールを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を中心に中国、香港、インド、中近東諸国、グアム、サイパン、パプアニューギニアといった南洋諸島などにも広く出荷している。
同社の野木義之社長は「売り上げは毎年右肩上がりで推移しており、その理由は3つある」と話す。1つは経済成長に伴いASEAN諸国の可処分所得が上昇し、現地メーカーより割高でも安全で品質が高い商品を選ぶ消費者が増えてきたこと。2つ目は域内全体で人口が増えていること。3つ目は日本食ブームが挙げられる。
シンガポール工場は現在ほぼフル稼働状態で、出荷量増加に伴い今年8月には新しい仕込みタンクが完成予定。しょうゆは日本と同じ濃い口が生産の大半を占めるが、現地のし好に合わせて甘めの商品も作っている。今後も販売は順調に伸びていくとみているが、さらにこれを加速させるため現在力を入れているのがインド、中国という2つの巨大市場のさらなる開拓だ。「インドでしょうゆを単独で売ろうと思っても難しい。新しい調味料として認知してもらうには、しょうゆを使った現地向けのレシピを開発することが重要だ。しょうゆを使うことで現地料理がより良い味になるようなレシピを作りたい。そのため当地のインド料理研究家と共同で調理法を模索しているほか、R&Dラボラトリーではインド向け新製品の開発も進めている」(同社長)。
中国では北部河北省、上海近郊にグループの工場があるが、生産拠点のない南西部へはシンガポールから輸出している。東南アジアと同様に甘めのしょうゆが好まれる南西部で、さらに現地のし好にあった高品質の新商品をR&Dラボラトリーで研究し、出荷量を拡大させたい考えだ。
このほかシンガポールではキッコーマン・グループで唯一、中近東向けにノンアルコール製法のしょうゆも製造。日本食ブームなども背景に潜在的な需要拡大を見込んでいる。巨大市場を開拓する上で重要な役割を担っているシンガポール。当地を拠点として拡大するアジア市場で攻勢をかけ、今後は年2けた成長の達成を目指す。
■中間層の取り込み狙う
ミツカングループは、2005年にアジア太平洋地域の販売会社ミツカンアジアパシフィックをシンガポールに設立。東南アジア、香港、台湾、オーストラリアを管轄する。日本をはじめ米国やタイ、台湾などアジア各地で生産された商品をアジア太平洋地域へ出荷している。
同社の関口俊和マネジング・ディレクターは「シンガポールは地理的優位性が高く物流ハブである点や優秀な人材の確保が容易であることに加え、カントリーリスクが少なく、通貨も安定していることから中継拠点として最適の場所」と話す。
食酢やすし酢、ドレッシング、めんつゆ、しゃぶしゃぶのたれなど和食関連調味料を中心に約50種類を取り扱っており、大半は日本製が占める。
05年当初は日本料理店向けなど業務用が多かったが、地元のスーパーマーケットで消費者への試食会を積極的に行うなど店舗販売にも力を入れることで、現在では小売用が業務用を上回るようになった。「当地では日本と似た素材を使った料理が多く、酢やめんつゆなどなど汎用性が高い商品を投入できる」(同マネジング・ディレクター)のが特長だ。
販促に向けた取り組みでは、▽日本食のメニュー普及を通じた売り上げ拡大▽ローカル食に自社商品を使ってもらうことで付加価値のある料理を提案▽現地の消費者のニーズに対応した商品開発――の3つが挙げられる。地元の料理学校でローカル食の講習に同社商品を使ってもらっており、商品普及に一役買っているという。
このほか最近では市場開拓の一環でインドへの出荷を始めた。中近東でも高所得者層を中心に日本食レストランの人気が高まっていることから、業務用をメーンにお酢や基礎調味料の販売が伸びている。
これまで顧客の多くは比較的所得が高い層が中心だったが、潜在的な経済成長力があるアジア地域では今後中間層の拡大が見込まれており、今後は「おいしさ」「健康」を演出する付加価値の高い商品をアピールすることで、同層の取り込みを強化したい考えだ。