シンガポール  2010年9月21日(火曜日)
基礎化学品の増産計画進む:需給悪化で一貫体制強化急務[化学]

シンガポールで石油化学製品の増産が加速している。エチレンやプロピレンといった基礎化学品から合成樹脂、合成ゴムまで、100億円を超える設備投資が相次いでいる。中国を中心としたアジアでの需要拡大が背景にあるが、中東勢の大幅増産などで需給環境の悪化が予想される。シンガポールの石化産業が自慢の競争力を維持していく方策はあるのか。業界の動向を3回にわたって伝える。第1回は、基礎化学品に焦点をあてた。



日系や欧米系などの関連企業約100社が林立し、シンガポール石化産業の代名詞であるジュロン島とブコム島で、基礎化学品の増産が活発化している。英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェルは、ブコム島でナフサ(粗製ガソリン)を熱分解して基礎化学品をつくるナフサ・クラッカーを新設、今年5月に操業した。来年には、米エクソンモービルが2基目のナフサ・クラッカー建設を終えて稼働する予定。

両社が立ち上げる新設備のエチレン生産能力は、それぞれ年間80万トンと100万トン。シンガポールの総能力は200万トンから380万トンとなり、ほぼ2倍に膨らむ計算だ。これまではエクソンが90万トン、住友化学が出資するペトロケミカル・コーポレーション・オブ・シンガポール(PCS)が110万トン(2基合計)の2社体制だった。

■800万トンも視野に

新増設計画は今後も止まらない見通し。経済開発庁(EDB)が、中長期的にエチレンの生産能力を600〜800万トンまで引き上げる方針を掲げているからだ。計画通りに進むと、2009年末時点で700万トン超、事業の統廃合で500万トン程度まで落ち込むとみられる日本の生産量を上回ることになる。

基礎化学品の大幅増産によるメリットは、世界3位の規模を誇る石油精製からの連携、一貫化がさらに強まることもあり少なくない。わずか3,000ヘクタールの敷地に精製と石化が同居し、一体化されてきたことで培ってきた競争力に一段と磨きがかかることは間違いない。

「規模のメリットを追求できるようになる」(日系商社)ことも利点となる。供給余力が発生するため、オレフィンが原料の誘導品を製造する企業による投資が促進される可能性が高まるからだ。より加工度の高い製品の出荷拡大が期待でき、シンガポールの石化産業にとっては付加価値の向上にも寄与する。その境目は「エチレンの生産能力400万トン」(同)で到達は視野に入っている。

■供給過剰に懸念

ただ、現時点では懸念の方が強い。最大の不安材料は需給バランスの悪化だ。国内の石化産業が主戦場とするアジア市場では、大型投資が相次ぐ中東からの製品流入が激しくなることが予想される。主要消費地としての頼みの綱である中国も石化製品の自国内生産が拡大しており、輸出先としての有望性が薄れようとしている。シンガポールで供給能力が増える分をはめ込む余地は確実に狭まっている。

特に中東勢は、使用する原料の価格が圧倒的に安いことから脅威となる。中東の基礎化学品の原料は、原油採取時の随伴ガスに含まれるエタン。価格はアジア勢が一般的に用いるナフサの20分の1といわれる。石油精製との一体化が進み、競争力が高いとされるシンガポールであっても、この差を埋めることは容易でない。

■LPG活用検討進む

シンガポールも、このまま指をくわえて事態を傍観しているわけではなく、コスト競争力を高めようと躍起になっている。

1つの方策として上がっているのが、ナフサに代わる原料としての液化石油ガス(LPG)の活用。オレフィン各社が実用化を模索している。原油市況の乱高下によるナフサ価格の変動リスクを回避することを狙った動きだ。

代表例がPCS。すでに一部原料としてLPGを使っているが、ここにきて使用量を大幅に増やすのではとの憶測が広がっている。先に出資を受けたカタールの国営石油会社カタール・ペトロリアム・インターナショナル(QPI)からLPGの供給を受けるというものだ。QPIはアジア向けのLPG販売を大幅に拡大したい意向を示しているだけに、憶測の信ぴょう性は高いといえるだろう。

■付加価値品カギ

基礎化学品の生産拡大に備え、川下の中間誘導品を含む付加価値のある石化製品の投資環境を整えることにも余念がない。ジュロン島ではさらなるインフラ整備が進むほか、各種の優遇税制を武器に世界の化学品メーカーの地域統括本部や、最先端の石化製品を研究開発する企業を誘致する流れが止まらない。

基礎原料の生産量を伸ばしていくためには、アジアを軸とした世界の需給バランスを見極めながら、高付加価値な製品を川上から川下へと一貫生産する体制を強化することがカギとなりそうだ。

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