シンガポール 2010年9月22日(水曜日)
日本企業、誘導品事業を拡大:アジア移管で生き残りに活路[化学]
基礎化学品の誘導品事業をシンガポールで拡大しようという日本企業が増えている。三井化学、電気化学工業、旭化成、クラレ、三菱化学などだ。設備の増設や新設、日本からの事業統括機能の移管など形式はさまざまだが、各社ともシンガポールに軸足を移すことで生き残りをかけようとしている。シンガポールの石油化学産業の動向を伝える第2回では、同国で誘導品事業を展開する日本企業の動きを追った。
シンガポールを世界に向けた重要な輸出拠点と位置付け、設備投資を積極化する企業が増えてきた。代表格は三井化学で、コア製品を相次ぎ増産しようとしている。合成樹脂の改質剤などに使われるポリオレフィン系エラストマー「タフマー」の第2プラントを今年3月に稼働させたのに続き、樹脂原料のフェノール増設を検討中だ。
投資については「11月に発表予定の中期経営計画で方向性を示す」(田中稔社長)方針で、先ごろ投資計画を発表した中国とともに、シンガポールを中核拠点として育成していく姿勢を明確にしている。
クラレも増産を視野に入れている1社。対象は、世界トップシェアを誇るポリビニルアルコール(PVA)だ。2系列(4万トン)の設備を持つが、隣接地に新設備を設置することを考えているほか、自動車ガラス中間膜などに用いるPVAを原料とするポリビニルブチラール(PVB)樹脂の生産もにらむ。
新規投資に踏み切るところも出てきた。直近では、電気化学工業が合成樹脂に耐熱性を付与するためのスチレン系重合樹脂「デンカIP」の製造プラントを新設すると発表。日本で生産する1万6,000トンを上回る2万トンの新プラントを、2012年4月をめどに稼働させる。
日本から事業機能を移管する動きもある。旭化成は、家電・OA機器、自動車製品向け機能性樹脂の変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂「ザイロン」の原料製造をシンガポールに集約する方針を固めた。PPEパウダーと呼ばれるもので、日本での製造を停止してシンガポールだけで生産する予定だ。
三菱化学は、ポリエステル原料であるテレフタル酸の事業統括機能を日本から移した。新会社を設立し、同製品の原料となるパラキシレンの調達、事業計画策定、輸出・販売、市場規模の各機能を移管した。
■中国への関税撤廃活用
化学各社がシンガポールで事業体制を強化する背景にあるのは、同国政府による投資誘致策。法人税率が低いことに加え、インフラ、セキュリティー、法体系といった事業環境も周辺国に比べて整備されている。
法人税は先進国の中でも低水準の17%だが、地域統括や事業統括機能を持たせることでさらに低減される。インフラ面では、石化企業にとってジュロン島での基礎原料から誘導品までの生産・出荷の統合サプライチェーンが活用できるメリットがある。
経済成長著しいアジア新興国の需要家に近い好立地であることや、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)間の自由貿易協定(FTA)が今年1月から本格始動したのも大きい。ほとんどの化学品がゼロ関税となるからだ。
■再開発計画も魅力
シンガポール政府は今年4月、ジュロン島の新たな再開発計画「ジュロン島バージョン2.0」の骨格を発表し、今後に向けてジュロン島のインフラをさらに整備することで、競争力のある事業環境を維持していくことを宣言した。日本の石化産業は、内需減少や他国との価格競争で劣るため輸出減が見込まれており、生産拠点を国外に移転することを検討する企業は多い。投資先として日本企業がシンガポールを選択し、アジアの需要を取り込む動きはこれからも続きそうだ。